色々な店に入り、上半身を隠すような衣服の試着を試してみるものの、一向に装備できるものが見つからない。いや正しく言えば、メイドアクセサリー程度なら売っている店があるものの、上半身を隠せるようなものが無いのだ。 商店街の端まで来たが、一着も無いというのが結果だった。
「ふぅ、ちょっと休憩しましょうか。それにしても全然、見つからないわね・・・次はどこで探すのが良いかしら」
目立たない場所に移動し、三人で相談する。相変わらずラフィンはリリナの方を見ることを許されておらず、背を向けたままだ。
「それにしても、本当に何も装備できなかったわよね。リリナさんのジョブが装備できるものって、どんなものがあるの?」
「え、ええと、メイドアクセサリーと・・・あの、その、淫具・・・でして・・・んっ♡」
「イング? イングってどんなものなの? もっと具体的に教えて!」
「そ、それは・・・」
どういう風に説明したらよいのか分からず、言い淀むリリナ。エッチなもの、とでも言えば伝わるだろうか。
「うふふ、わたくしが教えて差し上げましょうか?」
「!?」
突然の女性の声に驚く三人。誰も居なかったはずの木の後ろから、すっと妖艶な美女が現れた。エルフではない。美女の姿をよく確認すると、アスワルドと似たような暗い尻尾が生えていることが分かった。
二人を背にその美女との間に立ち、剣を構えるラフィン。
「お前は一度、アスワルドと共に居る所を見たことがあるな・・・確か、四天王のシャルミー!」
「ふふ、お久しぶりですわね、ヒューガイア騎士団長ラフィン。私の魅了したモンスター達がスピリッツァで暴れてるはずだったんですけれど・・・何も起きていないようなのでおかしいと思っていたんですの。あなたが来ていたのであれば納得ですわ」
「! そうか、あの魔物の大群はお前の差し金か・・・。ふふ、しかし奴らを倒したのは私ではないぞ。このリリナ様が一掃したわ!亅
「えっ、あなたではないんですの?亅
驚いたシャルミーは、ラフィンが自慢げに指し示したリリナのほうを見る。そこで、リリナが手に持つ淫欲の剣に目が止まった。
「あっ! それは、淫欲の剣!? 昔わたくしがアスワルドに預けたはずのもの・・・なぜ、あなたが・・・亅
「こ、これは、アスワルドさんに頂いたんです」
「アスワルドが、人間に!? しかもそれを、使いこなしているということですの・・・? サキュバスであるわたくしですら扱えなかった剣を、人間が・・・!?」
一時うろたえるシャルミーだったが、考えがまとまったのか、落ち着きを取り戻して話を再開する。
「なるほど、そういうことですのね。あなたは幻のジョブ、エロメイド。おとぎ話かと思っていましたが・・・」
そう言いながら、シャルミーが何やら呪文を唱えると、怪しげなピンクの煙が周囲を包みこんだ。
「くっ、毒か!? リリナ様、リーリエ王女、口元をお押さえください!」
「いいえ、毒などよりももっと、いいものですわよ・・・亅
ピンクの煙は、またたく間に三人に吸い込まれるように無くなった。
「うふふ、これで "魅了" 完了ですわ。魔族以外であれば性別関係なく、わたくしの下僕になってしまうんですのよ。さあ、リリナ・・・でしたかしら? その剣をこちらに・・・」
そう言いながら無造作にリリナ達の方へ近付いてくるシャルミー。思わずリリナは後ずさりする。
「あらっ!?」
そのリリナの様子に驚いているシャルミーに対して、ラフィンが斬りかかった。
「ふんっ! リリナ様から離れよ!」
「えっ、きゃああっ!」
正面にラフィンが居るにも関わらず全く警戒していなかったのか、悲鳴を上げて後ろへ飛び退くシャルミー。剣の切っ先がかすったようで、肩口からは血が滲んでいる。
「な、なぜですの!? あなた達はわたくしの下僕になったはず・・・!」
「下僕だと? はははっ!私の主人はリリナ様のみだ。お前などの下僕になるはずがなかろう」
「!!・・・そう、既にこの女の下僕になる術をかけられているのですわね。そしてこの女に術がかからないのは、考えたくないことですが、このサキュバスであるわたくしよりも、淫乱度が上だということ・・・!」
肩口を押さえながら、悔しそうな顔でリリナを睨みつけるシャルミー。
「何やら小細工をしようとしたようだが、リリナ様には通用せん。お前は戦闘自体は苦手だったはず。降伏すれば、命までは取らずにおいてやる」
剣の切っ先をシャルミーに突きつけ、降伏を促すラフィン。
「ふ、うふふ、確かに予想外だったので油断しましたわ・・・でも、もう一人はいかがかしら?」
「何だと?」
「きゃあっ!」
突如、リリナが悲鳴を上げる。リーリエがリリナに体当たりしたのだ。リリナは足をよろめかせ、踏ん張ろうとして股間に力が入り、バイブを強く締め付けてしまった。
「はぐぅっ・・・♡ あっ!」
想定外の刺激に、思わず剣を握っていた右手の力が緩む。その隙に、リーリエがバッと剣を奪い、タタタッと走ってシャルミーの前へ駆け寄った。そしてシャルミーに淫欲の剣を渡すと、ラフィンとシャルミーの間に立ちはだかる。
「リ、リーリエ様?! 何を・・・」
「うふふ、よかったですわ。この子にだけは "魅了" が効いたみたいですわね。さあ、剣を引いて下がりなさい」
虚ろな目をしたリーリエの首もとに、淫欲の剣を近付けるシャルミー。リリナが持った時と違って剣に輝きは見られないが、無抵抗なリーリエの首に単純な刃物として突き立てることは容易だろう。
「ぐっ、不覚・・・!」
ラフィンは剣を鞘に納めると、リリナの近くまで後ずさりする。同じくリーリエに刃を突きつけながら、二人で反対方向へと後退していくシャルミー達。
「そういえばあなた、上半身の装備を探していましたわね? うふふ、返していただいた剣の代わりに、こちらを差し上げましてよ」
そう言うとシャルミーは、リリナに向けて黒い水晶玉のようなものを放り投げた。コロコロ・・・と転がり、リリナの足元へと到達、足のつま先に "コン・・・" と当たった。
「えっ!?」
「あっリリナ様、そのような得体の知れぬものを触っては危険です!離れてください!」
「うふふ、もう遅いですわ。触ってしまいましたわね・・・」
直後、足元の水晶玉がグニャグニャと変形して四つに分裂したかと思うと、それぞれがリリナめがけて飛びついた。 |
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